制作にかかわるすべての素材、すべての人に優しいプロダクトにすること。それはサスティナブルに繋がる。

KAZUNE
MIYAKAWA

金工作家 宮川 和音

Makers’ Base勤務

1984年 千葉県生まれ
2008年 東京芸術大学 美術学部 工芸科 卒業
2010年 東京芸術大学 美術研究科 工芸 鍛金研究分野 修了
2010〜2013年 東京芸術大学 共通工房 金工機械室 助手
CARBON STOCK FURNITUREの金物部品製作を担当
現在は素材、ジャンル問わず制作をしている

あるがままの木材を、
あるがままに届ける
ミッション

あるがままの木材を、
あるがままに届ける
ミッション

2020年の8月頃、CARBON STOCK FURNITUREのコンセプト立案とデザインを担当しており、日頃、制作のご依頼を頂いているHAGI STUDIO代表の建築家で先輩の宮崎さんからいつものように連絡がありました。

「木を重ねて束ねるものを作りたい」

普段は宮崎さんのアイディアが既に図面におこされた状態で何々を作りたい、というところから始まるのですが、今回はとても抽象的な依頼でした。私は金工作家という肩書を持っていますが、金属の種類や制作ジャンルを定めることはなく、指輪のようなジュエリーから、家具、伝統工芸品、建築金物まで多岐にわたり制作をしています。これまでの依頼は、1点物や技術の必要な特注品を制作することが多く、今回の依頼のようなプロダクト的量産品を手がける事は過去あまりありませんでした。

まずは「木を重ねて束ねるもの」を具現化するために、開発チーム(HAGI STUDIO・東京ガスコミュニケーションズ)とアイディアを出し合いました。宮崎さんの「木材製材所で製材され積まれた木材のあるがままの姿を、あるがままに家具として製品化し、届けたい。」という言葉を元にデザインを考えていきました。当初のアイディアの中には木材だけが浮いているようなデザイン案もあり、これは最終的に金属パーツになった部分を、アクリルやガラスにするという案でした。
しかしアクリルやガラスでの制作はデザイン的には優れていたかと思うのですが、強度、加工の問題や、供給面での問題などがあり実現には至りませんでした。その後、更なる試行錯誤のもと、これらの問題を解決する素材として金属、主に鉄とステンレスが候補に選ばれました。

さらにCARBON STOCK FURNITUREの大きな課題の1つが「木に傷を付けない」というものでした。解体すれば、そのまま再生可能な木材になるというプロダクトを進める上で、傷を付けずに木材を固定することは外せない要素でした。

技術を必要としない
アートを支える、技巧

技術を必要としない
アートを支える、技巧

その後、実際にプロトタイプ制作となりましたが、素材形状を考慮した結果、流通も多く、扱いが容易な「パイプ材」を用いることになりました。このプロトタイプは、私が材料の状態から加工して制作したものだったのですが、制作過程でいくつかの課題点が見えてきました。そもそも木材は生物であり、自然物のため、規格サイズに加工されていても、1つ1つ育成環境による個性があり、反りやねじれなどの誤差が生まれてしまいます。木材に対し、誤差という表現は間違っているかと思いますがあえて誤差と表現します。そして対する金属パイプは人工物であり、誤差もごく僅かです。そのためどうしても、木材と金属パイプの間に隙間やズレができてしまうのです。ボルトナットの締め込みで調節したり、ゴム板を隙間埋めのスペーサーとして使用したりもしました。木材の誤差はもちろんある程度想定はしていましたが、実際に木材を確認すると金属ではあまり起こらないねじれが不規則に起きていたり、個体差が激しかったりと、組み立て作業そのものよりも木材の調整に時間がかかってしまうという問題が発生してしまいました。このような調整工程があるということは「手間」が発生するということです。この「手間」は、言い換えれば「時間のコスト」と表現できます。今回のコンセプトに基づき、この「時間のコスト」をなるべくうまく無くせないか?ということも考えました。

また、そもそも「鉄パイプを特殊な加工技術を持った者が一つ一つ制作する」ということ自体が汎用性に乏しく、量産品には向いていません。無駄のないデザインと、汎用性のある制作方法を掛け合わせることで「限定的な特殊技術を必要としない優れたアート」としての製品になることも重要でした。こういった試行錯誤ののち、ほぼ金属パーツ部分が見えず、木材だけが浮いているように見えるCARBON STOCK FURNITUREが完成しました。

先程の「手間」の件においても、最終的には金属板を「切断」と「折曲げ」の2工程だけで作れるようにデザインし、この事により図面さえあれば、ほぼ全国、全世界の金属工場で「特殊な加工技術」を用いずに作ることのできる製品になりました。更に今回は、レンチ1つあれば、「誰」でも「簡単に」組み立てることができる、ということにこだわりました。これは常々私が意識している、制作過程に携わって頂いている方々の時間的、作業的負荷を少なくした効率の良い段取りということにもつながっています。CARBON STOCK FURNITUREは、組み立てる際に、大きな木材をまっすぐ等間隔に並べる必要があります。しかし、定規などの計測器具を使いながら、大きな木材をまっすぐ並べて置くことは、慣れていてもとても重労働ですし、ミリ単位で置く繊細な作業が要求されます。

そこで考えたのが金属パーツに直接目印になる「タブ」や「穴」をつけることで、タブの間に木を置いていくだけで位置がわかるように、また、小さな穴を多数設けることにより木材を固定する位置もわかる様にもしました。金属パーツが同時に定規の役割も果たすということです。この機能をもつ金属パーツが完成したことで、レンチがあれば「誰」でも「簡単に」CARBON STOCK FURNITUREを組み立てることができます。

このプロダクトは、循環可能な社会に貢献しているだけでなく、デザイン性も優れているので美術館や博物館、公共施設などの空間に設置をすると、異彩を放ち、なおかつ馴染むような存在感を発揮する、と考えています。また、この「簡単に組み立てられる」という特性を活かし、仮に物資が限られる災害時においても金属パーツさえあれば、現地の木材を使ってその場で椅子や机が作れるというような使い方に発展していくことも想像できます。そういった考えの元、現在、好みの大きさに合わせて、木材の本数までチョイスできるような金属パーツの構想も練っています。

「効率化」が叶える
SDGsな未来

「効率化」が叶える
SDGsな未来

これは私個人の元々の考えですが、CARBON STOCK FURNITUREに限らず、全ての制作において常にあらゆる無駄を出さないように、と心掛けています。どの素材で、どういう加工手順で、どのように段取りをとり、どうやって限られた時間の中で効率的になおかつ要望に応えて完成させるか。作品を制作することは一人では出来ません。その前後で色々な方々が支えてくれる事で完成します。そういった工程に関わる全ての方にとって可能な限り「時間」や「作業」のロスが無いようにしたいのです。

新たに何かを作ることも大切です。ですが、慣習的になっている既存の工程をそういった観点からも考え直すことが本当のサスティナブルになるのでは無いかと思っています。例えば金属をカットする場合、どうしても端材が出てしまいます。これらの端材は工場で廃棄する際コストがかかります。しかし、最初のカットの形を少し変更するという工夫で、ロスが大幅に無くなるかもしれません。作り手がデザインをスタートする段階でそれらを加味する意識を持つだけで、根本から変化して行くのです。

プロダクトで重要な「コストを抑えること」は、結果「サスティナブルな製品」となります。素材の無駄が少なくなるからです。素材がどこから来て、最後はどこへ行くのか。制作に0から100まで関わることで見えてくるものがあります。私の専門の金属は、基本的にはほぼ100%リサイクルされます。ですが、仮に銅と銀、など、他の金属同士が混ざり合ってしまうと、素材として再利用する際にそれらをまた分けるのにコストがかなりかかります。そのため、端材を捨てる際になるべく金属同士が混ざらないようにするだけでこういった「手間」も「コスト」もかかる工程が減り、再利用しやすくなるのです。このように少し気を配るだけで、無駄を省き効率的に、どの工程に関わる方々にも優しいプロダクトデザインを目指すことができます。

CARBON STOCK FURNITUREはとてもシンプルで、金属パーツ制作も、製品の組み立ても「誰でもできる」ところまで、洗練された製品です。CARBON STOCK FURNITUREは、組み立てるのと同様に解体も手軽に行えます。解体した木材は建築資材として、外した金属パーツは溶かして再利用するも可能です。また東京だけではなく、各地方の木材を利用することができます。今回のCARBON STOCK FURNITUREは木材に着目していますが、今後私が携わった金属パーツすらも再利用した材料から作るプロダクトできるかもしれない…と考えています。例えば、地方の工場で廃材となった金属板を利用して作るようなことも可能かもしれません。

CARBON STOCK FURNITUREは、たくさんの可能性を秘めています。CARBON STOCK FURNITUREはそこにあるだけで、「森林の貯蔵庫」として機能します。見て、触れて、知って、「SDGs」を考えるきっかけにしてもらえたらと思います。

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豊かな生活を保つ森の役割

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