岩手・宮城内陸地震の経験が、強烈に意識させた森林資源との関わり。
「森の力」を生かしたSDGsを実現する一歩。
TOYOSHI
SASAKI
佐々木 豊志
https://sasakitoyoshi.com/
1957年岩手県遠野市生まれ
青森大学総合経営学部教授(学部長)
観光文化研究センターセンター長
SDGs研究センター副センター長
くりこま高原自然学校代表
NPO法人日本の森バイオマスネットワーク理事長
一般社団法人日本環境NPOネットワーク代表理事
森林資源と「くりこま高原自然学校」
4年前に宮城県栗駒から青森大学に単身赴任した。研究室には栗駒の杉で作った木製の椅子があり、毎日心地よく座っている。
青森県は県名に「森」がつく唯一の県である。「山」がつく県はたくさんあるが〝森〟が付く県は唯一青森である、と言い続けてきた。青森県民、企業、行政、そして学校も、青森の未来を考えるときに〝森〟に向き合わずして青森の未来を語る事なかれと、事があるたびに、私は言い続けてきた。
私は、野外教育・冒険教育や環境教育を専門に取り組んで、宮城県の西北部栗駒山の山中に1995年から「くりこま高原自然学校〈http://kurikomans.com〉」を経営している。活動のフィールドが、山や森、川や海なので、常に自然環境を意識してきた。非日常の自然体験アクティビティにとどまらず、農的な暮らしを実践する日常の中でも自然と共存するライフスタイルを提案し続けてきた。自然学校を設立したきっかけは1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット」に遡る。世界180の国や地域の代表が一堂に会して環境問題を考える世界初の会議に、当時の日本の総理の宮沢喜一が欠席し、世界から日本の姿勢が非難された屈辱的なでき事である。その5年前の87年にブロントラント会議で「持続可能な開発」(Sustainable Development)という概念が示され、92年の地球サミットでも、さらに強く打ち出された言葉である。自然学校の活動の根底には、この概念がある。私が強く森林資源を意識したのが2008年に岩手・宮城内陸地震で被災したことにある。避難指示を受け自然学校を山から里へ移し、新たな事業を拓かなければならなかった。例にもれず栗駒の里山も手入れが十分にされず森が荒廃していた。被災後の新しい取り組みとして森林資源の健全な循環に取り組む目標が生まれた。地元で出会った森林資源を生業にする林業家、製材所、工務店、そして木質ペレット燃料・ストーブメーカーとともに全国のネットワークを活かすNPOを立ち上げ、持続可能な暮らし、社会を創造することに取り組んだ。2011年東日本大震災の時には、このネットワークで、被災地へペレットストーブを届けたり、東北の木材で家具(ワイスワイスと連携)を製作するプロジェクトも展開したり、豊かな森林資源を活かす取り組みに注力した。
「石油由来のモノ」から「木質由来のモノ」へ
青森大学には、長年放置して手入れをしていない76haの山林がある。赴任した年から学生をこの森へ連れだし、授業で林業経営を学ぶ演習をスタートさせた。県の林政課の協力を得て「青森県の林業の現状を知る・林業の現場の体験をする」授業である。さらに青森市内で薪ストーブの普及・販売に取り組む社会的企業「woodrack〈http://wood-rack.jp〉」の取り組みも学生に伝えた。学生たちは、化石燃料である灯油の市民一人当たりの消費量が日本一なのが青森市であることを知り、化石エネルギーから木質エネルギーへ転換するにはどうすれば良いのか考える機会が生まれている。
〝森〟という字を「木」「水」「土」の3つの漢字を組み合わせて「モリ」と表現している人がいる。現在北海道滝上町に暮らす「おじじ」こと徳村彰氏だ。おじじが森との対話から悟った思想であり哲学である。彼はこれからの未来の時代は「モリの時代」が必要だという。それは、都会から離れて森に住めということではない。森は様々なモノが関係しながら成り立つ生態系ができている。何一つ否定されるモノはなく、必要とされ共生している世界だという。これまで私たちの多くが追い求めてきたグローバル経済社会は、人間中心主義となり非合理なものは否定され、切り落とされてきた。これからの社会は都会でもどんな社会でも、否定されるモノはなく、それぞれが共生できる関係性の中で活かされる社会になるべきだと説く。まさにSDGsの世界なのだ。
森林資源は、捨てるものはない。そして地球環境で不可欠な持続可能な循環する、持続可能な資源なのである。近年、急速に我々の暮らしの中から森林資源の利用が減っている。反対に化石資源、石油由来の製品が溢れている。循環可能な森林資源から有限の化石資源に利便性を求めてきたが、持続可能な社会を実現するなら、本気でそろそろ時代は変わらなければならない。
地球温暖化の要因であるCO2の削減を地球規模で取り組んできている。もう一度「森の力」を生かさなければならない。CO2のカウントは、化石燃料から出るCO2で、薪ストーブで燃やされる薪から出るCO2はカウントされない。
それは樹木が成長するときにCO2を吸収し、O2を排出し、そして木質に炭素を蓄積する。
灯油を燃やす石油ヒーターから薪を燃やす薪ストーブに転換する。スチールや石油由来のプラスティック由来の家具から木製の家具へ転換する。このシフトチェンジが、持続可能な社会への一歩となりSDGsへのアクションとなる。
「カーボンストックファニチャー」の意義がここにあるのだ。